誰もが近年感じているであろう気候変動による地域生活へのダイレクトな影響、それが大規模風水害の増加である。
1月号で紹介した石垣島を始めとした沖縄は日本有数の台風直撃地である。ただ、巨大台風が年数回直撃することを前提に都市も住宅もインフラも作られている。すなわち、住民にとっては、大規模風水害が当然であり、備えが十分だとも言える。一方、近年急激に台風が襲来することが増えている九州や西日本を始めとした本土(近年では東日本から北海道に至る広範囲で)はまだまだ備えが不十分であり、その結果、大きな被害が発生するケースが増えている。
こうした事態を受けて、自治体も防災計画の見直しを始めている。しかし、日本の防災は、地震への備えのためのものと言う位置づけが強く、風水害対策はまだまだ発展途上なのが現状である。
今回は近年の頻発する大規模風水害対策のために、市民の風水害リテラシーを高める神戸市発のユニークな取り組み「風水害24」を紹介する。
風水害24とは
風水害24とは、大規模風水害の接近から直撃・通過までの24時間をリアルにシミュレーション体験することを通じて、風水害発生時に必要な知識、適切な判断や行動を学ぶワークショッププログラムである。このプログラムにはユニークな特徴がいくつかある。
特徴1 風水害をリアルに体験できるロールプレイングゲーム形式
通常の防災訓練ではどうしても実際に起こる状況をリアルに想定することが難しい。そこで、このプログラムでは、大規模風水害接近から通過までの24時間をリアルにシミュレーションすることが可能なロールプレイングゲームの仕組みをワークショップのプログラムに導入している。
プログラムは10ターン(各ターン5分弱)で構成される。各ターンが実際の2-3時間を意味し、45分間で24時間を体験できる。ターンが進むに連れて警戒レベル(風水害の激しさ)があがる中、各ターンの気象の状況や自分の現在地の危険性を元に、参加者は移動・声掛け・情報収集・家の補強などの行動を選択する。
自分の現在地・気象状況・行動選択によって、イベントが発生し、場合によっては大きな危険に直面する。危険な場所で危険な行動を取ると、生命の危機にも陥る。
ゲームは本物さながらのニュース映像とともに進行し、誰もが風水害が迫る状況に没入し、楽しみながら参加することができる。
台風が通過した24時間経過時のライフポイントにより生死や負傷が決まり、最終的に地域全体での死者・負傷者が発表される。
特徴2 住民間の対話と協働
ロールプレイングゲームというと、テレビやスマホを目の前に孤独にするというイメージがある。しかし、このゲームは基本的には地域の公民館などで地域住民(5-30人)が集合して取り組む。同じ場所に集まった仲間が協働し、自分の命を守るとともに、地域全体で死者が出ないことを目指す。
また、コロナ禍で集合型のプログラムが難しいことや、外出が困難な方、イベント等に参加が難しい家族連れが参加できるように、オンラインのプログラムも用意されている。
ゲーム終了後には、この24時間を通じた学びと教訓を参加者同士で共有する対話と必要な知識を伝える講義が続く。車で移動する、ハザードマップを見ずに誤った情報で移動するなど、危険に陥った原因となる行動を振り返ることで、単に講義で伝えられるのとは異なる深い気づきと学びを得られるようだ。
特徴3 市民ファシリテーターの育成
このプログラムは、地域の公民館等で行政の防災の取り組みの一環として開催される以外に、市民誰もが自ら開催できる「風水害24ファシリテーター」資格制度があることもユニークな特徴だ。
この資格取得を希望する市民は半日の研修を受講することで、このゲームを運営するスキルとキット、認定証が授与され、自らゲームを主催できるようになるのだ。
2020年後半よりワークショップの開催が始まり、2021年1月より市民ファシリテーターの養成講座がスタートしている。1-2月合計で36名のファシリテーターが誕生しており、2021年内に200名の育成を目指している。
ファシリテーターは、消防団、自治会役員、学校の先生、行政職員、企業の防災担当など多岐にわたり、それぞれが学校の防災教育、地域の防災イベント、企業の防災訓練などの場で活用しているようだ。
このプログラムは兵庫県神戸市、岐阜県飛騨市の防災プログラムとして正式採用が決まったほか、全国各地で導入の検討が進んでいる。
気候変動対策に必要な市民の想像力。
気候変動問題の難しさ、それは問題が地球レベルの巨大なもので、なかなか自分ごととして実感することが難しい点にある。最近暑いなー、台風が多いなーという漠然としたイメージは持てるものの、地球の平均気温が上昇し、それが自分の生活に深刻な影響を及ぼすことをイメージするのは難しい。そこで市民に求められるのが「想像力」である。市民一人ひとりが自分たちが暮らす地球に、日本に、地域にどんなことが今後起こりうるのかをイメージする力である。
気候変動を始め、人口減少、大震災など、日本の地域が抱える深刻な社会課題のほとんどが目に見えずわかりにくい。こんな時代に必要なのが市民の想像力であり、市民の想像力を高めるために行政に求められるのが情報をわかりやすく伝え、市民の気持ちを動かし、行動を喚起する「デザイン」の力なのだ。
参考文献 : 風水害24公式ウエブサイト
https://issueplusdesign.jp/project/fusuigai24/
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