世界各国でSDGsへの取り組みが進む中、我が国日本でもSDGをどのように達成するか、という議論が多く繰り広げられています。特に地方におけるSDGsの重要性は極めて高く、持続可能な地域社会を築くためには、間違いなくSDGsの考え方を取り入れていくことが重要です。
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さないことなどを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組む普遍的なものであり、日本でも積極的に取り組んでいます。
地方創生とは
「国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成」。これは、まち・ひと・しごと創生法に明記された地方創生の目的を表す一文です。地方創生とは、第二次安倍政権で掲げられた、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的とした政策で、2014年にまち・ひと・ しごと創生法が成立しました。
高度なデータ分析が可能な RESASを提供するなどの「情報支援」の矢、地方創生カレッジ事業、地域活性化伝道師、地方創生人材支援制度などの人材育成・派遣による「人材支援」の矢、地方創生関係交付金、企業版ふるさと納税などの「財政支援」の矢の3つの矢を政策の柱としているのが特徴です。地域活性化、人口減少対策に必要な資源(情報・人・お金)で地域に支援するための取り組みです。
さまざまな分断
2014年からはじまった地方創生の活動によって、移住者の増加によって人口減少に歯止めをかけるなど、大きな成果をあげている自治体が存在する一方で、多くの自治体では状況を改善できずに苦しんでいるという実態があります。活動がなかなか成果をあげられない理由の一つが地域内に多くの分断が存在することです。
本来地域づくりとは、住民も行政も関係なく、その地で暮らす人々が自力で、みんなでやるのが当たり前のはずが、住民側からは「それは行政の仕事。高い税金を払ってるのだから、やるのが当たり前」、そんな声が頻繁に聞こえてきます。行政側も「それは、民間の仕事です」と積極的に関与しない姿勢が見られます。こうした「官民の分断」の事例は枚挙に遑がありません。
また、行政にも、民間企業にも縦割り組織という分断が存在しており、複数の分野にまたがる課題がたらい回しになったり、責任者不在で置き去りになるといったことや、子どもと高齢者は 以前は生活の場を共有していたが、保育施設と高齢者施設といった縦割りの福祉制度によって、交流の機会が失われるなど「縦割り組織の分断」が生じている。
他にも分断は様々なところで発生しており、単年主義の弊害から早期に成果が出る事業が優先され、半年先の事業にしか取り組めないといった「現在と未来の分断」や、 自治体間で数少ない若者を奪い合う移住促進や、過剰な返礼品によるふるさと納税など、健全に競い合うレベルを超えた過剰な奪い合いといった「地域間の分断」、 高齢化が進む地方圏ではまちづくりを担う人材は 60-70 代以上が中心で、下の世代が関われない、関わってもらえないといった「世代の分断」。
まだまだ女性への偏見が大きい地域も多数あり、女性の進路や仕事が限られたり、 指導的地位に就くことが難しいといった「ジェンダーの分断」などなど、様々な分断が生じています。
SDGsが地方創生になぜ必要か
こんな多数の分断を超えて「潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会」を目指すために、誰一人として取り残さないを誓うSDGsのアプローチが役立ってきます。住民、事業者、農家、行政、 NPO、自治会、商工会、農協、学校などの個別の立場や組織を越えて、産業・環境・ 教育・医療・福祉・防災・まちづくりなどの領域を超えて、持続可能な地域の未来を実現するための活動。いままさにSDGsにもとづく地方創生の活動が求められています。
SDGsイシューマップでみる
包括性とパートナーシップ
17のゴールはSDGsの最も大切な考え方ですが、誤解を生みがちなのが、個のゴールの位置付けです。目標は便宜的に分かれていますが、ゴールはそれぞれ独立して存在しているものではなく、互いに密接に関連しています。あるゴールの達成のための行動が他のゴールを阻害することもあれば、逆に複数のゴールに好影響を与える活動もあるのです。
SDGsイシューマップは、そんな17のゴールが、すべてつながっていて、1つのゴールを達成するためには、他の目標とのつながりを考えなければならないことを理解するためにデザインされました。
分断のシナリオと協働のシナリオ
例えば、ある海が美しい地域で観光振興を目的とした海洋レジャー建設の話があったとします。日本全国、世界中から観光客を呼び込むことで、地域に多くの雇用を生み、地域経済を活性化する可能性があります(8 仕事、9 産業)。一方で、豊かな 海の汚染(14 海の豊かさ)や基幹産業である漁業の衰退(9 産業)、廃棄物((12生産と消費)も危惧される。そんな状況に対して、今後のアプローチ次第で、2つのシ ナリオが考えられます。
海洋レジャー事業者が、漁業関係者が、地元商店・ホテルが、行政が、それぞれが自分の利益や目的の達成、立場を優先する行動をとると いうシナリオ。このシナリオでは、互いの利害関係が衝突し、誰かが利益を得たら、 誰かが不利益を被る事態が生じます。
様々な関係者が対話し、地域全体が目指す姿、それぞれの関係者の生活や事業の目的を共有し、ともに達成することを目指して協働するシナリオ。地域全体が活性化し、関係者それぞれが利益を得ることができる、そんな理想的なシナリオ。
書籍紹介
SDGsの考え方をベースにした、持続可能な地域づくりの具体的・実践的な方法論を体系的にまとめた書籍。
持続可能な地域のつくり方
未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン
持続可能な地域づくりは、どうしたら可能だろうか?SDGsの考え方をベースに、過去の成功体験や他地域の成功事例に頼るのではなく、確かな知と科学的アプローチで行政・企業・住民が一体となり地域を着実に変えていく方法を体系化した書籍。
書籍をご希望の方はこちら(Amazon.co.jp)からご購入いただけます。
著者│筧裕介(かけい・ゆうすけ)
書籍情報│英二出版/A5変形判/並製/424ページ
本体2,400円+税/2019年5月発行
ISBN10: 4-86276-251-4/ISBN13: 978-4-86276-251-1